おばあちゃんの残したもの②

私たち夫婦は、夫のおばあちゃんが生前住んでいた家に現在暮らしている。おばあちゃんは一人台所で倒れ、帰らぬ人となった。


おばあちゃんの家に暮らすことは、初めはとてもしんどかった。リホォームしたとはいえ、あちこちに、おばあちゃんの思い出がつまっていて、目にする度に涙した。一番辛かったのが、お風呂と台所だ。台所はおばあちゃんが倒れたところ。一人で倒れ意識があったかはわからないが、どんな思いをしたかと思うと、台所に立つ度に辛い思いをした。床に頬をこすりつけて泣いたこともあった。お風呂は、おばあちゃんのためのお風呂だった。底の深い浴槽におばあちゃんが入りやすいようにと、近所の大工さんが作った特注のすのこが洗い場に置かれている。そして、浴槽に出入りしやすいようにと、壁に手すりがつけてある。この家に住み始めてから数ヶ月、毎晩お風呂に入る度に、この手すりを見て涙した。そこにおばあちゃんを感じたから。おばあちゃんが一人でどんな思いで生活していたんだろう。手すりが、おばあちゃんの老いを語っていた。生活を語っていた。その手すりを握りしめて、私は涙した。