写真

写真を撮るということは、なかなかどうして難しいものだ。写真を取る動機はいくつかあると思う。私の場合、誰かとその場面を後に分かち合いたい時、その場面を思い出として残しておきたい時、その場面に感動して切り取りたい時などがそうだ。しかしなかなか旨く写ってくれない。



柳の葉が湖にはらりと落ちた。アメンボが水面をかく、水面が揺れる。柳の陰から釣り人が見える。そんな場面を写真に収めることはできない。一瞬の感動は自分だけのものだ。なんでも写真に写そうとすると、本当の感動の場面を見逃してしまう。



ベンチの隣に、とてもかわいい子を連れたお母さんが座った。私の隣でずっと笑ったり喋ったりしながら遊んでいる。時々目が合うと、満面の笑みか、はにかんだ笑顔を返す。お腹をつつくと笑い転げる。その笑顔に、思わず写真をとらせてもらっていいかと頼んだ。しかし、カメラをむけると、さっきの笑顔がでてこない。ぎこちない笑みになってしまう。写真を撮り終えて、見せると、また元気のいい笑顔に戻る。写真を撮るとはなかなか難しいものだ。



湖の岸辺におばあさんが一人立っている。何かを考えているように湖面を見つめている。上から木々の葉が生い茂り、彼女の後姿は私の心を捉えた。しかし、写真にとって見ると、木の陰になってしまって、彼女の背中は真っ黒になってしまった。写真を撮るとはなかなか難しいものだ。しかし私の心の中に彼女の背中は残っている。