タイでのこと ⑥

タイの北部チェンマイでの話。
本当は、その日からゲストハウス主催の一泊二日で山岳民族に会いに行くトレッキングツアーに参加するはずだったんだが…


朝たたき起こされて、今日はあなた一人しか予約がない。えー昨日申し込んだ時は私一人だったけれど、夜になって大丈夫になったよって言ってたじゃん!あの言葉は何だったの?!と思う。「あなたのこれからの予定は?もし大丈夫なら明日なら3人予約が入っている。どうだい?あの後ろにいる彼らだ。」と片言の日本語と英語で話す受付のおじさん。「today is only me〜?!」と聞き返す。もちろん、「ガイドと山の中で二人っきりになることなどない様に!セクハラされます。」とガイドブックで読んだ私は、「OKOK!」明日出発でいいよと承諾。


さて、今日一日をどう過ごそうか。バーツの持ち合わせが少なくなってきてが、今日は土曜日だから銀行もやってないので両替ができない。ここは田舎町だから両替商も簡単にはみつからないだろうし。なるたけお金のかからないすごし方をしようと決意。今から近くにある市場を見に行ってみよう。地図上だと規模が小さいから多分庶民の生活のための市場だろう。とにかくここらへんを歩いてみよう。昨日に比べて今日は暑いが、バンコクに比べれば涼しいくらいだろう。
チェンマイという街の意味は「チェン」というのは「城都」と言う意味で「チェンマイ」は「新しい城都」の意味を示す。実際に「ターペー門」という城壁が街を囲んでいる。私が行こうとしている市場はその名のまま「チェンマイ市場」。城壁沿いにある。ぶらぶらと歩いていくと、昨日、屋台で食べたところの先だった。市場内には2本の通路があって、半分くらいは店が閉まっていた。開いている店では野菜を売っていたり、お菓子を売っていたりするが、そんなに呼び込みもしない。最後の料理屋のお兄さんがかなりひつこくおいでおいでしていたが、sorryと言ってバイバイする。だってお腹空いていないんだもの。
市場は閑散としていて、もっと庶民の生活が見れると思っていた私には面白くなかったので
、ガイドブックの地図を頼りに街を歩くことにした。


ゲストハウスまで戻り、その前の道をトコトコ歩いていく。Ratcha Phakinaiという道路。ゲストハウス前は細い道だがだんだん太くなっていく。道ばたには左右どちらにもいくつかお寺院があった。ふっと一つの寺院に入ってみる。入り口にバイクタクシーのおじさんたちがたむろしている。中にはいると黄金の大きな仏像。その前に何故かソファーが置いてあった。ここに座って拝めと言うのだろうか?きっと観光者向けだろうな。扇風機が回っていて涼しい。中にも誰もいない。しばらくソファーに埋もれて仏像を見ていると欧米人女性の二人組がやってきた。そこで、外に出ることにした。(ゲストハウスに帰ってから何気なくガイドブックを読むと、ここはワット・チェンマンというチェンマイでは最も歴史のあるワット=寺院だった。偶然!)しばらく歩くとまた寺院がでてきた。そこにも入ってみる。敷地内には誰もいず、犬が何匹かいた。先ほどよりはいくらか小さな寺院だ。中に入ってみると、薄暗く、ここにはソファーはなかった。絨毯敷きの床に胡座をかいて座る。仏像も小さく二体あった。一つは金色、もう一つは緑色。しばらく、仏像とむきあう。私は無宗教だが、ここに静かに流れる空気は好きだ。誰もいず、私と仏像だけ。対面して沈黙しているが、心で対話している気分だ。別に内容なんて無い。きっと仏像との対話ではなく、自分の心と対話できる場所。心の静寂が自分の中をきれいにしてくれている気がした。なんだかとても気持ちが良かった。寺院というものは、人々の信仰を高めるために必要な場所なんだなと実感した。だって、私でさえこんな気持ちになってしまうのだから。これはヨーロッパで教会を訪れた時にも感じた。宗教には人々の心を静かにさせる、神と、自分と向き合わせる場所が必要なんだなと思う。そこに宗教は力を入れる。人々の心を捉えるために。


随分長い間小さな寺院にいた。敷地内には香りの良い花が咲き誇っていて、地面に沢山花が落ちていた。私はその一つを拾って香りを楽しみながら歩いた。路地に入っていくと、庶民の生活が見れた。一つ一つの家々、小さな子どもが遊んでいたり、洗濯物が干してあったり、犬がうろうろしていたり。途中でとても小さな扉があった。そこは塀で仕切られていて、その扉は石に精密な細工がされていて、少し苔が生えていて上からは木が生い茂り葉を垂らしていた。この中も寺院なのだろうか?中に入ってみようと扉を押すが開かない。何をしても開かなかった。がっくりして歩いていると、また扉が!しかしそこも開かなかった。かなり歴史的な建物だと思うのだが残念だ。本当に惚れた扉だった。中には何があったのかいまだに気になる。
夕方になり、また市場に戻ってみると店が次々と開き始めていた。そして、ターペー門沿いに屋台を出すために、おばさんたちが料理をてんこ盛りにした屋台を引っ張って来ていた。何人も何人も。屋台で料理を作るのかと思いきや、家で作ってから、こうやって持ってくるんだと驚いた。この日もここの屋台で夕食を楽しんだ。


次の日には山岳民族に会いに行き、もう一泊してからラオスに渡るためにフエイサイと言う、もっと小さな町に移動する。前日に夕食を一緒に食べた人たちがラオスに行っていて、めちゃくちゃいいよ!とかなりお奨めしていた。私の心はすでにラオスに向いている。いや、明日からのトレッキングも楽しもうじゃないか!トレッキングのために早く寝た。